1.ぼってりデザイン

 

 

 

あか抜けのしない、田舎臭いデザインでも自動車が持てるだけで幸せだった頃、ぼってりした胴体の車が

誇らしげに街を走った。それらのぼってりした形は、コンパクトにまとめきれない内蔵機器を納めるための

やむを得ない外装であったわけで、メカニズムのコンパクト化によりスタイリングもスマートになっていった。

顕著な例がコスモスポーツの薄く尖った鼻先。(フェアレディ240ZGなどは似たような形であってもメカの

コンパクト化とは無関係。)これは、ロータリーエンジンが、従来のレシプロエンジンに比べ、格段に小さく

ボンネットに収まったためにできた造形であろう。

 

 

車は、薄く、広く造ることができるようになり、5ナンバーサイズであってもそれ以上に大きく見える造形が

なされるようになった。大きく見えてもサイズの数値を聞くとそれほどでも無いというような場合が多くなった。

 

グロリア(幅1695mm)

 

 

クラウン(幅1690mm)

 

幅広く見えるこれらの車が実際には、コンパクトカーのトヨタイスト(幅1695mm)と同等かそれ以下の

全幅しかないといえば意外であろう。しかしこれは当時非常に高かった3ナンバーの自動車税を回避し、

5ナンバーでも広大車に見えるよう工夫したデザインの成果である。

 

イスト(幅1695mm)

 

しかし、税制改正により3ナンバー車の税額が引き下げられると、一気にこれらのデザイン上の工夫は

捨て去られ、実際に幅広い車がどんどん登場した。バブル期の到来である。実際に広く造れるというなら

「広く見せる」技術は必要ない。こうして日本の道には幅広すぎる車があふれるようになったのである。

 

ユーノス コスモ (1795mm)

 

バブル期が終わり、車もまた萎まなければならなくなったとき、車体は小さくなっても乗車空間は

変わらないという現象が発生した。やはり人間は一度広い車に乗れば狭いものには戻りたくない

もののようで、その結果、車は室内空間はたっぷりとした、ぼってりしたデザインに傾いていく。

 

トヨタ ビスタ(1998)

乗車空間は広く、前後は縮めた結果前後が変に寸詰まりになったこのような車が登場する。

利用機器としてのデザインならばこれは有用、合理的、ということになるが実車を目の当たり

にすると、これはかなり変である。これなら無理してセダンのスタイルにしよう、という意味は

あまりなく、やはり人気はミニバンに流れていった。

 

 

車のぼってり化は続き、厚ぼったく見えない車は「スタイルが古い」とまでいわれるようになった。

しかし、どちらが古いかは疑問である。ぼってりに戻ったデザインこそ古きに還ったのかもしれない。

 

  

時を経て 車はぼってりに戻った

 

フェアレディのようなスポーツカーでさえも ぼってりしてきたデザインを採用した

 

ぼってりしたデザインには戦略的トリックが含まれている。軽自動車よりちょっと大きい程度に

見えるヴィッツが実際、旧型車と並ぶと馬鹿デカイということに気づいた時には、驚くと同時に

だまされた気分にもなった。コンパクトカーとして売っている車種でありながら「箱スカ」と呼ばれる

日産スカイライン2000GTなどより全高は勿論、全幅も大きく越えているからである。つまり、幅、

高さは実際にコンパクトなのではなく、コンパクトに見えるだけなのである。小さいのに中は広い、

のではなく大きいから中が広いのだ。

 

スカイライン2000GT(全高1390mm全幅1595mm)

この車よりもヴィッツは背が高く、幅が広い。

ヴィッツは(全高1500mm全幅1660mm)

 

 

 

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