当時東洋工業だったマツダが社運をかけて世に出した車であったことは、各方面で取り上げられ名高い。
ロータリーエンジンはそれだけ世間の関心も高く、実際世界的にも評価されるべきものだと思えるのだが、
その割に実際手に入れ、愛車とする人は少ないという特性も併せ持っている。最近になってRX−8のヒット
により、オーナーの数は増えたとはいえそれでも全体から見ればほんの特殊な例であることに変わりはない。
コスモスポーツは、ロータリーエンジンという革新的技術を世の中に知らしめる広告塔として
発表されただけに、デザインを最上位に優先して設計された。車室は狭く、リクライニングも限られ、
居住性は決して良くないのだが、それでも人を納得させるだけの力がそのスタイリングにはあった。
シールド付きのヘッドライトは当時のスポーツカーの流行だが、この車には特によく似合った。
コンパクトなロータリーエンジンの収まるボンネットは極端に低く、尖った鼻先には剥き出しのライトは
収まりにくい。ボディラインを崩すことなくヘッドライトを納めるこの手法は空力的に有効なのは元よりだが
スポーティな表情の演出上、大変重要な役割を担っている。後に主流となるリトラクタブル式はライトの
露出時のカエル状の表情がウィークポイントだったがこの方式にはそうした破綻もない。照明機能的には
照射角の不足などの問題点があったかもしれないがデザイン上は最高の処理だと思う。近年、この時代の
表情をリバイバルしたような車も出されているが、いずれもライトカバー内にプロジェクターランプやウィンカー
など複数の灯火類を詰め込んで昆虫の複眼のような形相を呈しており、丸目単灯のシンプルな表情には及ばない。
この車の特徴的な処理はフロントよりむしろリヤに集中してみられる。トランクを長く残して
切りつめられた車室後端の処理は、マツダクーペ同様のラウンドウィンドウになり、横から
見ればカプセルにも似て、宇宙船にも例えられた。リヤライトはバンパーにより上下に分断され
国産車としてはほとんど他に例を見ない意匠である。
マツダ クーペ360
薄く低いトランクにはそう多くの荷物が入るとは思えないが、この種の車にはこれで充分に思える。
現在のミニバンに乗り慣れた人には荷室や空間の不足は我慢できないであろうが、元々ミニバンとは別種の乗り物なのである。
この車の給油口はこのトランク中央ウィンドウ側にあり、これは適切な配置とは思えない。デザイン優先
であることはわかるが、不慣れなアルバイト店員が給油する際にボディにガソリンを垂らすことがよくあり、
布で拭き取ったりしているが繰り返すと塗装の劣化を招くからである。美観を考慮する車種であればこそ
その美観を永く保つためのデザインもあって然るべきである。
現在は一部ミニバンに見られるのみとなった真ん中から両脇に跳ね上げるタイプのワイパーも、
この車を雨の日に見かけたときには面白いアクセントであった。通常のワイパーよりも一生懸命
動いているように見えるのである。タイミングがずれて絡まったりすることはないのかと思ってしまうこともあった。
コスモスポーツは当初の役目を果たし終え、消えていった。その後コスモの名前は数度に渡り
マツダのラインアップに浮かんでは消えていったが、この車の正統な後継ではなかった。ルーチェの
兄弟車だったり、レシプロ車が出たりしてこの車名の性格を曖昧なものにしていった。むしろサバンナの
後継として位置づけられたRX−7の方がコスモスポーツの性格を受け継いでいたのではなかったか。
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