小排気量スポーツが2BOXハッチバックのみになった90年代初めに、敢えてそれらとは異なった
3BOXクーペとして登場したところが新鮮であった。もともと60〜70年代には800,1000ccといった
小排気量の車であっても大排気量車同様、独立したトランクを備えたスタイルが当然であったのだが
ホンダシビックの登場以来、ユーザーの考えは変わった。外観より居住性重視の考え方が普及してくると
徐々に小排気量車は2BOX化してゆき、80年代にかけてずんぐりしたものが増えていった。そこを突いた
トヨタの手法は一種冒険的であったのかもしれないが外れてはいなかった。常に1〜2名で乗車する独身者に
とっては後席の居住性などはたいして重要ではなかったのである。
小排気量のリアスタイルが、ぼってりした2BOXであるのは仕方ないと諦めていた人々が
サイノスのデザインに食いついた。性能を求めたわけではなく、その容姿を求めたのである。
この車の元はターセル/コルサであり、決してスポーツ車ではない。にもかかわらずそのデザイン
と価格の安さで街中に台数を増やしていった。
この車、トヨタがかつてとった手法をなぞって登場している。つまり、小排気量大衆車パブリカを元に
トヨタスポーツ800が生み出されたときと同様の出自である。パブリカ → スターレット+ターセル、
コルサであるから、サイノスはトヨタスポーツ800の子孫であるとも言えよう。今でこそトヨタS800は
特別扱いされているが、昭和50年頃までは一桁万円の中古車もあった、サイノス並みの扱いの、
スポーツルック大衆車であった。
トヨタスポーツ800
小さいながらも前後のデザインも隙無くまとめられ、洒落た感じを醸し出す横からの
眺めも、セリカに負けない満足感を所有者にもたらしたに違いない。
1995年、先代のイメージを残したフルモデルチェンジが行われた。フロントのトヨタマークは
掘られた穴に落とし込まれ、リヤナンバーが持ち上げられ、顔の真ん中に据えられてしまうなど
魅力をむしろ減退させるデザインとなったが、免許取得間もない運転入門者に支持されるなどして人気は安定していた。
フロントのマーク
この車の成功は、ミラージュアスティなどの同様なタイプを他社に生み出させることになった。
この後間もなくクーペは苦境の時代を迎えるが、それまでの一時期、サイノスは街を飾っていた。
TOYOTA NISSAN MITSUBISHI MAZDA HONDA DAIHATSU SUBARU SUZUKI ISUZU 他