ランサー・ランサーセレステ/ランサーエボリューション

 

 

ランサーがこの世に出たとき、「相変わらず垢抜けしない三菱の車」の印象であったことは

否定できない。当時の三菱はギャランGTOやコルトギャランのデザインで野暮ったさを脱しつつある

ところであったが、ランサーのデザインは前世代のコルトに戻ろうとでもするかのように見えた。

ボンネット側にヘッドライトが盛り上がるという1960年代で消えたはずのフロントデザイン、申し訳

程度に小さく配置されたテールライト類。どこをとっても新しいと言えるものはなく、カローラやサニーに勝るものは何もないかと思われた。

 

ランサー市販車

 

 

コルト800

 

 

しかし、この車のセールスポイントはそんなところにはなかった。1973年に始まる出場ラリーでの

連戦連勝。一般の人々に「ラリー」という競技があるということを知らしめたのもこの車である。当時の

ドライバーであったアンドリュー・コーワンやジョギンダ・シンなどの名は小学生さえ知っていた。

 

 

補助灯を装備しながらも、見かけ上ほぼ市販車のままで荒野を走る姿はこの車のイメージを一変させ、

誇らしささえ漂わせた。三菱の各営業所ではラリーで活躍するランサーを映画で公開し、有力な販売戦術として

活用した。影響を受けた人の中には新車のボンネットをわざわざ艶消し黒に塗って街に乗り出す者もいた。

 

全く大衆車のままの形の車が、スーパーカールックスのランチアストラトスなどの車を相手に優勝するのだから

大衆の興奮も当然のことであった。当時はまだはっきり漂っていた外車に対する日本車の劣等感も軽減してくれた。

ランチア ストラトス

 

本来大衆車として誕生した車が競技常勝車のイメージで売れてゆく。これはスカイラインの例でもあったことだが

車に夢を託した時代の象徴的な販売作戦であった。実際手元に届く車が全く性能の違ったものであっても、形が同等ならばそれで満足だったのである。

 

 

一方、ランサーには異形の兄弟車があった。セレステと呼ばれるクーペモデルで、むしろこちらの方がモータースポーツ向きの形に見えたのだが、

販売的にはこちらの人気が高まっても旨みは少ないということで依然、セダンの方が競技用に用いられ続けた。

セレステは同じランサーでもかなり印象の違った洒脱な感じがした。アメリカ風の味付けがなされ、実際

プリムス・アローとしてアメリカ、カナダでも販売された。日本ではセダンランサーの陰に隠れ、人気は

出なかったが、セダンにはない大きなテールゲートを持ち、見かけ以上に実用性もあったようだ。

 

ランサー・セレステ

 


 

初代モデルのあと、ランサー人気は冷え込み、80年代はその存在は曖昧なものとなっていった。

ランサーEXと名付けられたかと思えば、同時並行してミラージュの兄弟車がランサーフィオーレと

命名され販売店に回された。デザイン的にも全く見るべきものはなく、直定規1本で図面を引いた

のかとさえ思えるような出来であった。この時期の三菱デザインは冬の時代で、トレディア、コルディア

と次々送り出しはするものの、いずれも心に残るものはなく、一代限りで消えていったのであった。

 

ランサーEX(1985)

 

ランサーGSR(1995)

 

時は流れ、それでもランサーはラリー常勝車であり続けることを運命づけられていた。

既にファミリーカーとしてのランサーの販売にはラリーイメージは関連せず、エボリューションと

命名されたモデルのみが競技車そのままのイメージを背負い特化していった。販売台数的には

市場に影響を及ぼすこともなく、限定された愛好家のための車となっていったのである。

 

 

エボリューションシリーズはファミリーカーのランサーとは全く異なった存在となり、その位置は

スカイラインとGTRの関係より離れてしまったように思う。一般市販車の販売にほとんど貢献

しない状態でその人気だけが一人歩きしていった。同時期にスバルが放ったインプレッサとの

ライバル関係が強調されると更にその傾向は強くなり、一般公道では全く生かすことのできない性能を詰め込まれ、市内の道を這い回っている。

 

車体はファミリーカーの流用なのでデザイン上の特徴といっても付属物の印象の違いでしかない。

愛好家の多い「羊の皮をかぶった狼」という表現も、ここまで付属物で飾り立ててしまうと「羊の皮」

ではあり得ない。ファミリーカーの外見でなければならなかった初代ランサーとは全く存在意義も違ってきてしまったようだ。

 

 

上の写真はマツダ・ファミリアと並んだ所であるが、意外なほどデザイン上の差に乏しい。

もちろんスポイラーやボンネットの空気導入孔などで雰囲気作りはしてあるものの兄弟車といっても信じてしまいそうである。

 

 

 

三菱自動車は度重なるリコール隠しで、存在を絶たれ兼ねない苦境にある。

少量生産のエボリューションはもとより、ランサーの継続生産さえ怪しい。

デミオの登場が苦境のマツダを救ったように、三菱を救う車は出てくるのだろうか。

 

 

 

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