MX−6....この車名をきいてもどこのメーカーのどんな車か思い浮かばない人も多かろう。
知っていたとしても現物を見たことが無いという人さえ珍しくないかも知れない。そんな日陰の花である。
この車がなぜそれ程、影が薄いのか。これは出生の時期のメーカー事情によるところが大きい。
この車が生み出された1992年当時、メーカーのマツダは、まるでトヨタに正面から対抗するかのように
5チャンネル販売店制を敷いた。マツダ、ユーノス、アンフィニ、オートザム、オートラマと、企業規模に比し、
無謀なほど多いブランド設立を敢行した向こう見ずな戦略だった。
異なるブランドを冠してしまったからには異なる車を準備しなければならない。ちょっと前までは
ルーチェ、カペラ、サバンナ、ファミリアくらいしか持たなかったマツダが全チャンネルに新型車を
供給するのは容易なことではなかっただろう。いくらクロノスの車台を使い回したとしても外装はそれぞれ作り上げなければならない。
MS−6,MS−8,MS−9,...驚くことに次々出される車の多くは、この状況の中にも関わらず、
しっとりした、落ち着いた魅力のある完成度の高いデザインを持つものであった。ただ、車名の方は
追いつかなかったのか記号で済まされてしまうのが当然のようになっていた。輸出用には記号車名を
付けたとしても国内用愛称を用意し、親しみを持たせるというゆとりはもはや無かったのであろう。MX−6も、
その中の1台として数に紛れて世に出ることになった。
2000〜2500のV6エンジンを積むこのクーペは、3ナンバーの大柄ボディをまとい、FFで現れた。
顔は当時の流行から外れることのない、さして特徴的でもないデザイン。リアもほぼその通り。ただ、
横からの眺めはちょっと変わっていた。
何とも後ろが長いのである。人間が乗っている箇所が半分より前よりに見えるほどの尻長である。
長いドアの後端からホイールアーチまでが更にこれだけ余っている。4ドアにも出来そうなほどだ。
ミッドシップにさえ見えてしまうが、これは車台がクロノスであるための制約だったのだろう。ドローン
としたデザインが逆にこの車の魅力でもある。画像で見るより実車はだいぶ美しい。
この車の最大の不幸は車名であったと思う。RX−7(あーるえっくすせぶん)の響きに比べ、
「えむえっくすしっくす」である。これはくどい。「えっくす」を持ってきたら「しっくす」は避けるべきだろう。
V6ということから6が外せないとすれば「えむえっくす」を何とかするか、愛称を与えるかのどちらか...。
実際、それを避けるのは困難な作業ではなかったはずだが、その程度の気配りの余裕さえマツダには無かった。
今でもこれと同じ命名の過ちを「えっくすぼっくす」が冒してしまい、苦境に陥ってあがく羽目になっている。
MX−6 全長×幅×高さ(4610x1750x1310)
1992〜1995
TOYOTA NISSAN MITSUBISHI MAZDA HONDA DAIHATSU SUBARU SUZUKI ISUZU 他