1993年の東京モーターショーに出品されたコンセプトカーは、2年後に生産車として
姿を現した。当時、スズキはワゴンRの大当たりで調子急上昇中。その勢いではじき出されて生まれたような車だった。
2シーターオープン4WD。他社には無いそのコンセプトは、オフロードのロードスターとなるかと思われた。
ボディデザインは当時多くなっていた、丸形基本のキュート系で、マツダレビュー、プレッソ
ホンダCR−Xデルソルなどに共通する味付けであった。あくまでも泥のにおいを感じさせない
市街地タイプ4WDのような印象だったが、エスクードが元になっているため、実力的には
本格的なものを備えていた。以前は当たり前になっていたオフロードのオープン車は、年々
安全規制や雨漏り対策のため姿を消しており、Tバールーフとはいえ、
爽快な風が味わえるというのは魅力的なポイントであった。
ガラス屋根は取り外しできる
爽快だが車内で横になることはできない
しかし、この車は市場には全く受け入れられなかった。メーカーではモーターショーの
反響から市販でもイケルと判断し生産に踏み切ったわけだが、「いいなー」という思いと
「買います」という決断の間には大きな隔たりがあることを見抜けないでいたことになる。
確かにこの車を見ると「こんなのが家にあったらいいな」という思いがわき上がってくる。
しかし用途を考えると躊躇してしまう。
パジェロを筆頭としたRV(現在はSUVか)車にはとりあえず後席と荷室が用意されている。
この種の車を手に入れようとする人の多くはアウトドア用品を積み込み、家族や友人と出かけ
ることを楽しみにしている場合が多い。しかし、X−90に積載される荷物は最小限。荷室は
ほとんどルーフ収納スペースとしてしか機能しない。出かけられる人数は2人限定。
本格的な走行性能を駆使して山に行っても、日帰りで戻るしかない。
得られるものがスズキのオフロードバイクと大差ないということになってしまうのである。
X−90は偶然か必然か、スバルヴィヴィオTトップとスタイルが酷似している。
しかしヴィヴィオはX−90より売れていた。新車価格は10万円程度しか違わない。
排気量の違い(ヴィヴィオ:660cc、X−90:1600cc)、駆動方式(ヴィヴィオ:FF、
X−90:4WD)ということを考えればX−90は格安である。値引きを含めれば
実売価格はX−90のほうが安かったかもしれない。
それでも同様の姿のヴィヴィオのようには売れなかったのは何故か....。
ヴィヴィオには狭いながらも後席があった。(乗車定員4人)
参考:ヴィヴィオTトップ登録台数約4000台(現定数)
X−90登録台数1400台弱(1355台?)
スタイルのよく似たヴィヴィオ
典型的な遊び車であるこの車を持つことのできる人は必然的に限られてしまう。「高額でも必要ならば購入する」
という人は多いが、「あこがれからものを買う」人は、品物が高額になればなるほど急激に減少してしまうのであろう。
思い切りのいいデザインだったが
スズキのセールスマンが戸別訪問に来て、X−90の在庫新古車を80万円でどうですかと言った
ことがある。新車価格(136万円)から実に50数万円の値引き。心が動いたが、買えなかった。
理由は上記の通り。
この車は4輪ではあるが、バイクなのである。
スズキはこの後、ジムニーからオープンモデルを削除してしまう。潜在的には多くいる、
オフロードオープン車の需要層を切り捨てたのである。この判断にX−90の販売失敗が
絡んでいるのではないかと思われてしまうのであった。
金額的に買えても、欲しい気持ちがあっても買えない不思議な存在。
確かに未知数「X」であった。
TOYOTA NISSAN MITSUBISHI MAZDA HONDA DAIHATSU SUBARU SUZUKI ISUZU 他